事例紹介/CASE STUDY

ダイバーシティ&インクルージョン 実践ケース
03:若手社員の活用〜CPSアワード〜

若手社員が上司と異なる意見を発言することができず、議論が起こりにくいことが組織の課題に挙げられることがあります。よりよい事業を実現する可能性を閉ざしてしまうだけでなく、若手社員の仕事へのモチベーションにも大きく影響することも懸念されます。

アシックスのコアパフォーマンススポーツフットウェア統括部(以下CPS統括部)では、エンゲージメント※の向上を目的として行われた部内のワークショップで、若手社員が「CPSアワード」と呼ばれるプレゼン大会の実施を提案。上司との意見の違いをお互いに理解し合い、納得できる着地点を見出すことで実現しました。「CPSアワード」開催までの経緯や思い、開催後の変化などについて、若手社員を中心とする提案グループのメンバーと当時の上司が語り合いました。

※エンゲージメント:組織(会社)と個人(社員)が一体となって双方の成長に貢献し合う関係のこと


CPSアワードの開催に至ったきっかけは?

若手社員K(以下K) そもそものきっかけは、2017年のエンゲージメント・サーベイで、ベテランに比べて若手のエンゲージメントが低いという結果が出たことでした。

T統括部長(以下T) 特に若手社員の「会社の経営やゴールに参画していると実感している」の数値が低く、若手が活躍しているCPS 統括部にとっては重要な課題だと認識しました。そこで、課題を掘り下げるワークショップを開催。階層別に分けたグループから改善アクションプランを出してもらい、統括部全員の投票で実施するアクションを決めることにしました。

K その改善アクションプランの一つが、僕たちのチームが発案した「自分の仕事の自慢大会」、後の「CPSアワード」でした。若手社員は入社数年で責任あるプロジェクトを任されることにやりがいを感じる一方で、「自分たちがやっていることは上司に届いているの?」という疑問もありました。それがエンゲージメント低下の理由だとグループで考えたのです。

T 若手社員が「自分の成果が上司に届いていない」、「公平に評価されていない」と感じてしまうと、本当は自分の仕事が会社の成長に結びついているのに、それを実感できないケースは確かにあります。

 そこで、統括部のメンバーが自分の仕事をアピールできる場として「CPSアワード」を提案したのです。


若手メンバーがこだわった点、苦労した点は?

K 若手主体のグループが提案した「CPSアワード」でしたが、若手社員が上司に仕事や成果を発表し、上司はそれを評価するだけの場にはしたくありませんでした。管理職以上も含めた全員が自分の仕事をアピールし、お互いの仕事を理解し合う機会にすることが、統括部全体のモチベーションを上げ、エンゲージメント向上につながると考えたからです。ここで「発表は若手だけでいい」というT統括部長の意見とぶつかりました。でも、若手も上司も発表することがこの企画のキーポイントでしたので、そこは私もグループを代表して意見しました。

その結果、年齢や役職で制限しないが、全員ではなく有志が発表するという新しい提案でお互いに納得できました。途中、T統括部長に「本当に成功するの?」と聞かれ、プレッシャーも感じましたが、「1回目は失敗してもやってみよう」と覚悟を決めて進めました。


統括部長は若手社員の意見をどう受け止めていた?

T ワークショップで「CPSアワード」が提案された時、私は正直、「これは難しい」と感じました。アシックスには、良くも悪くも成果を自ら自慢するような風土ではないと感じていましたので、この企画がエンゲージメントの改善に結びつくのか懐疑的で、実は私はこの案に投票しませんでした。でも、統括部員の投票の結果、この案に決まった後は、それを部全体の意見として受け入れました。実行に向けての計画時は、マネジャーや部長を挟まず、提案グループのリーダー・Kさんと直接やり取りしました。議論の場では、私はいつも自分の考えを押し通そうとしてしまいがちですが、それをぐっと堪え、Kさんの自主性に任せることもしました。

特に私が意識したのは、この活動を一度で終わらせるのではなく、継続させることでした。だから、当初はハードルの高い全員参加ではなく、若手だけが発表すればいいとKさんには伝えたのですが、そこは譲りたくないとのこと。最終的には、お互いが納得できる「有志が発表者となる」案に着地しました。


実行メンバーだった若手社員たちの思いは?

若手社員・S(以下S) ワークショップ当初から「全員参加」を提案していましたので、有志参加に変更となった時、本来のエンゲーメントの向上という目的が果たせるかどうか、不安を覚えたのは事実です。でも、発表者の年齢に制限をつけないというこちらのプライオリティの高い条件もT統括部長に考慮していただきましたので、納得できました。当日までは社員が参加しやすいイベントとなるようメンバーと協力しながら企画し、統括部の社員に参加を呼びかけました。

若手社員・W(以下W) 参加者募集では8組を目標に声をかけた結果、13組が集まり、若手だけでなく、30代後半の社員にも参加いただけることになりました。

CPSアワードの概要と結果 『俺の話を聞け!!』をキャッチコピーに、2017年末に開催し、統括部全員が参加。自らの成果を発表する13組のプレゼンを行い、全社員の投票によりランキングが決められました。
また、会場の席次は年齢・役職がばらけるようくじ引きで決め、円滑なコミュニケーションの場となるよう工夫しました。
第1回CPSアワードは入社2年目の社員のプレゼンが1位の栄冠に。発表者全員に統括部全社員からの感想やアドバイスが手渡されました。
イベント後の忘年会では、これまでのように年齢や役職ごとに分かれて固まることなく、両者が入り混じり、世代を超えたコミュニケーションをとる様子も見られ、開催後のアンケートの結果、第2回の開催希望は90%以上、発表者としての参加希望は60%以上となりました。


CPSアワードからの学び

S 私とWさんで司会を務めましたが、入社2年目の社員が1 位になるとは思わなかったですね。普段はおとなしいイメージでしたが、プレゼンでは漫才師かと思うくらいのトークでした。

W プレゼンを通して、「この人にはこんな一面があったんだ」という気づきが多かったです。開催後は職場でも社員同士の距離が近くなって、コミュニケーションもより活発になりました。僕自身、上司とこれまで以上に話すようになりましたし、インクルージョンされていると感じることも増えました。

K 僕は企画段階でT統括部長と直接議論できましたので、統括部長が懸念されていることも理解できました。お互いに意見を言い合えたことが、「CPSワード」の実現につながったと考えています。普段は口火を切って発言されるT統括部長が、当日はずっと会場の後ろの方で寡黙だったので、期待と違ったのかとドキドキしていました。

T そんなことはないですよ。もしそう映っていたなら申し訳ないですね。話し合いを重ねてこの企画には納得していたし、後ろに控えていたのは、運営する君たちを信頼していたから。あの時に私が前であれこれ言うことが、今回の目的に合っているとは思えなかったしね。開催後に統括部全社員へメールで送った通り、感謝の言葉しかありません。当日は各組の発表に感動したくらいですから。

K その言葉をいただけて安心しました。

T 若手社員が熱い思いを持って仕事に取り組んでいることがわかったし、こちらのリクエストに応えてくれる能力もある。それを実感できたことは「CPSアワード」の収穫です。また、ワークショップの時点では、「若いから」という偏った考えや、「この打ち手だとエンゲージメントの改善につながらない」と自分だけの物差しで物事を判断していたけど、君たちの意見や思いを聞くことで、「そういった考え方もあるのか…」と視野は広がりました。今は別の統括部に異動になったけど、 「CPSアワード」のような企画の有無に関わらず、若手から意見があがってくるような組織にしていきたいですね。自分の考えが正しいとは限らないので、しっかりと意見を上げてもらい、議論したいと考えています。みなさんも今回の経験を、普段の仕事はもちろん、将来管理職になった時にも活かして欲しいと思います。