事例紹介/CASE STUDY

ダイバーシティ&インクルージョン 実践ケース
04:営業報告ツールを活用したインクルージョン
(アシックスジャパン ベースボール事業部)

成果を出すためには、個人の経験やスキルは欠かせません。ですが、それがあまりに重視されてしまうと、経験の少ない若手社員が成果を出すことが難しくなり、全体のパフォーマンスは向上しません。

アシックスのベースボール事業部も、個人の力量や人脈・ネットワークに業績が左右されてしまう点が課題となっていましたが、営業報告ツールを用い、情報とスキルを社員が共有することで、解決に向けた取り組みを進めています。その結果、若手社員たちが「全国の社員が自分の情報を活用してくれているのがうれしい」と話すように、社員もインクルージョンされていることを実感しています。

その営業報告ツール導入の経緯や運用方法、導入後の効果について、ツールを活用した組織のインクルージョンを推進する上司と、営業活動の現場にいる社員に話を伺いました。


営業報告ツールの概要

アシックスジャパンで導入している営業報告ツールは、パソコンやスマートフォンなどでスピーディに営業成果を報告し、社員同士で共有できるもの。SNSのように、他者の投稿への「いいね」やコメントを送ることもできます。多様な人財のパフォーマンスを上げるために、ツールを積極的に利用しているベースボール事業部での活用方法を聞きました。

W部長(以下W) ベースボール事業部全体のパフォーマンス向上に向けて、「社員同士の横の連携を図ろう」「積極的に発言しよう」という方針は以前からありましたが、それだけで組織は変わりません。私が目指しているのは、入社間もない若手社員も、30年目のベテラン社員も、同質の情報やスキルを持って仕事に取り組む、個人の経験則だけに頼らない組織です。それを実現するために営業報告ツールを活用しています。使うことがゴールではなく、ツールを活用したPDCAの仕組みを作るのが私の役割だと考え、いくつかのルールを決めて運用しています。

営業報告ツール徹底活用のためのルールとは?

W まず、ツールを利用しての営業報告を大前提としました。 それに加え、投稿を可視化し、「報告を読んだら『いいね』ボタンを押す」「マネジャーはコメントを残す」といったルールを徹底しました。できていない社員を見過ごして「やらなくても大丈夫だ」という空気を作らないようにするためです。
次に、これまで社員によって報告内容がバラバラだったのですが、たとえば展示会の報告では「良い点」「悪い点」「響いたポイント」「具体的な施策」の4項目に絞るなど、報告を読む人が情報を活用しやすいよう体系化した内容を投稿すること。これはツールへアップするためだけではなく、戦略的に話を聞き、自ら考える癖がつくため、若手社員の指導にも役立っています。

M ツール導入前は、若手社員の自分がどうやって得意先と関係を築くかが課題でした。アシックスの名前でアポイントは頂けても、私自身がキーパーソンと核心をついた話ができるのか悩み、時に悔しい思いもしました。今はツールで各エリアの社員の報告をチェックできますので、得意先で使える情報を収集。「他のエリアでは◯◯の評判がいいです」と担当者やキーパーソンに具体的な情報を伝えることで、踏み込んだ提案ができ、契約につなげられるようになっています。また、スマートフォンからもアクセスできるので、商談が終わってすぐの移動中など、情報鮮度が高いうちに投稿できる点も気に入っています。

N 以前は週報と月報をその都度作成していましたが、これらの報告書が部署全体の成果につながっているのか、疑問に思うこともありました。でも、ツール導入後は投稿すると全国の社員からレスがあり、アドバイスもいただけますし、「役に立ったよ」と喜ばれたりもします。営業活動以外でも、展示会での商品に対する取引先のフィードバックをまとめて、プロダクト部門と連携してスピーディに改善できたケースもあり、情報そのものはもちろん、それを共有することの大切さを改めて感じています。


座談会/ツール導入によって何が変わったのか

ベースボール事業部が行っている営業報告ツールでの情報・スキルの共有は、組織力を向上させることにも役立っています。ツール導入の狙いとその効果について、3人が語り合いました。

M ツール導入にあたって、W部長はどういった点を考慮されたのでしょうか?

W 専門性の高い部署ですので、甲子園出場経験のあるような先輩が上司や周りにたくさんいると、キーパーソンとの阿吽の呼吸が決め手になるような個人の力量頼みになり、発言も業務改善などの提案もなかなかできません。特に若手は成果を出すのにとても苦労します。

N インクルージョンされにくい環境ですね。

W そうです。その中で若手が成果を出すにはどうすればいいのか考え、現存の営業報告ツールの活用方法を仕組み化しました。報告をし、意見を述べる事で離れたエリアの先輩とのつながりも生まれますし、情報共有のスピードが上がります。今回の営業報告ツールも使い方によっては、各社員のスキルや情報を水平展開すると同時に、組織力も向上させるツールにもなり得ると考えました。

N 評価にもつながることを含めて、ツールでの報告が部全体にとってプラスになっていることを、今は部のみんなが実感できているので、モチベーション高く取り組めています。西日本の社員は、東日本の展示会の商談内容をツールですべて確認し、知見を積んだ上で、自分たちの展示会に臨むなど、有効活用しているようですね。

W ツールの報告を営業時の提案に活用したり、よいアイデアを他のエリアでも導入したりと、部署の横つながりが強まり、成功事例が増えています。Mさんはどうですか?

M 各エリアの評価をまとめ、「関西でこのバットが売れています」「名古屋の大会ではこのバットでホームランが出ています」と商品ご案内の切り口に使うことで、得意先からもよい返事をいただけることが多くなりました。以前と比べ、得意先に伝えられる情報量は圧倒的に増え、提案しやすくなったように思います。また、報告や資料をツールにアップすれば、各エリアの社員から「資料使わせてもらったよ」とレスがあります。そんなときは、役に立って嬉しい、やってよかったな、と感じます。

W ツールは若手・ベテランというバイアス(偏見)なく、組織内のさまざまな意見を等価値で共有できるツールです。当初の目的の通り、情報・スキルの共有が、組織の活性化に大きく貢献できていると思います。現時点ではルールを決めていますが、もちろん、将来はルールなしでツールを運用できることがベストです。そして、社員一人ひとりがインクルージョンされていることを当たり前に感じる環境にできればと考えています。