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アシックス プロジェクトストーリー

世界中のランナーに愛される一足を

アシックスを代表する高機能シューズ「GEL-KAYANOシリーズ」最新モデルの開発ストーリー

アシックスを代表するランニングシューズ「GEL-KAYANOシリーズ」は、長距離ランナーのエントリーモデルとして毎年リリースを重ねている。

その24代目となるGEL-KAYANO24は、構造や素材を検討しながら、デザイナーや研究所と共に商品開発のT.Iが中心となってプロジェクトを進めた。

何を考え、何を実現したのか。デザイン担当のH.N、研究担当のS.Nも加えた3名が開発ストーリーを語ります!


プレッシャー以上に「やってやろう!」という気持ちで

商品開発担当:
僕が今の部署に移動して最初に開発を担当したアイテムがGEL-KAYANO24でした。入社以来、バスケットボールやレスリングのシューズを扱うコート開発チームの所属でしたが、今回はこれまで以上に社内外から注目を集めるアイテム。上司から「GEL-KAYANO24を担当してくれ」と話が回ってきた時はプレッシャーを感じました。でも、世界中のランナーに愛されているシリーズを担当できるとあって、「やってみたい!」「やってやろう!」と、気持ちも盛り上がっていきました。

デザイン担当:
GEL-KAYANOと聞けば、アシックスで働く社員なら全員がテンションの上がるモデルです。僕は2005年の入社当時にGEL-KAYANO14や15のデザインを担当していて、今回は10年ぶりでした。経験を重ねた今の自分にどんなGEL-KAYANOが生み出せるのか、楽しみでもありました。

研究担当:
僕はランニングシューズの新規コンセプトおよび機能構造の開発、ならびにその機能評価を担当しています。今回のプロジェクトに採用している基礎研究の成果は、2〜3年前から研究所のメンバーが取り組んできたものです。成果は高機能アイテムに搭載されることが多いので、GEL-KAYANOシリーズは自分の研究成果を形にするための目標となるシューズの一つです。

“GEL-KAYANOらしさ”とは、何か

デザイン担当:
シリーズ24回目の開発となる今回、“GEL-KAYANOらしさの追求”がテーマでした。

商品開発担当:
GEL-KAYANOシリーズがランナーの皆さまに23年も愛されているのは、走り心地や安定感が絶対的だからです。今回のプロジェクトでは、前モデルで採用したソールの新素材「FlyteFoam(フライトフォーム)」を訴求するため、商品企画チームからもソールは前作を踏襲したいという方針があり、アッパーの改良に重点を置くことに。とはいえ、アッパーのモデルチェンジで「24はたいして変わっていない」と思われても困ります。変えるべきところは変えて、継承するべきところは継承するためにも、“GEL-KAYANOらしさ”とは何だろうと何度も考えました。

デザイン担当:
そのバランスは、デザインでも難しかった。

研究担当:
結果として、今回はその“GEL-KAYANOらしさ”を踏襲しつつ、フィット感を向上させることでリニューアル感もしっかり実現できました。

商品開発担当:
そうですね。前モデルはフィット感に改善すべき課題があって、プロジェクトのスタートとなるキックオフミーティングや開発コンセプトでもフィット感の向上は必須項目でした。だから、フィット感を向上させるために、研究所のどういった成果を採用して新機能として盛り込むのか、その機能を活かすためにデザインはどうするのか、H.Nさん(デザイン担当)やS.Nさん(研究担当)とは何度もディスカッションを重ねて進めましたね。

お客さまの期待を超えるシューズづくりを目指して

商品開発担当:
ディスカッションの結果を踏まえ、僕達は構造を前作から変え、足首をサポートするような補強パネルを採用することでフィット感を向上させようとしました。それをH.Nさん(デザイン担当)がデザインに起こして、僕は素材を選んだり、デザインをチェックしたりして、最初の試作品となるファーストサンプルができあがりました。

デザイン担当:
デザイン的にも、すごく攻めたものでしたね。

商品開発担当:
初代は補強パネルでフィット感を高める機能がありました。原点回帰という意味で初代の機能をバージョンアップさせてみようと考えたんですが…。

研究担当:
ファーストサンプルは、確かに足首のホールド性においては非常に優れたデータを示しました。でも、人がフィットしていると感じるのは、足首や踵周りのホールド性だけではなく、足当たり等も考慮しないといけません。補強する位置や方向については間違ってなく,材料と構造を改良することにより、より良いフィット性が実現すると感じていました。

商品開発担当:
S.Nさん(研究担当)からは「もっとこうすれば…」という意見をたくさんいただきました。そこから少しずつ補強パーツを減らし材料を選定し直し、過度な締め付けから、包み込むようなフィット感へ改良しました。僕が試行錯誤する中、H.Nさん(デザイン担当)は機能面をはじめ、“会社を代表するアイテムとしてどうか”、“売れるかどうか”という視点でデザインとしてまとめてくださいました。

デザイン担当:
GEL-KAYANOシリーズを発売以来ずっと愛してくれているお客さまには「GEL-KAYANOだ」と思ってもらえること、初めて手に取ったお客さまには「履いて走ってみたい」と思わせるようなデザインを、いつも心掛けました。ただ、このアイテムに一番求められているのは、やはり機能性だから、デザインの軸は「いかに機能性を引き出すか」。特に今回のフィット感という課題はお客さまの主観にもよるので、実は一番難しいと感じていました。


更なる機能性の追求、それを裏付ける数値的根拠

商品開発担当:
S.Nさん(研究担当)はフィット感をできるだけ客観的に、数値で実証できるよう、サンプルが完成する度に評価試験を繰り返してくださいました。

研究担当:
人間の足はとても複雑な構造をしています。歩いたり、走ったりするだけで体重の数倍の荷重が掛かるし、その結果、大きく変形します。評価する時、フィット感を数値化するだけでもさまざまな項目がありますが、このシリーズで目指すのは、誰が履いても、すべての項目で90点以上の高い数値を示すようなシューズです。だから、期待するような数値が得られなかった時、サンプルに少し加工を加えて再評価し、「ここを改良すればどうでしょう?」とT.Iさん(商品開発担当)やH.Nさん(デザイン担当)と話し合うこともありましたね。

商品開発担当:
経験や感覚だけに頼ることなく、データとして機能性の根拠があることは、パフォーマンスを重視したシューズ作りではとても大切なことです。H.Nさん(デザイン担当)やS.Nさん(研究担当)のおかげで、サンプルの作成を重ねるとともに数値が向上しました。結果として、サンプルの精度も次第に高まり、「これでいけそうだ!」という手応えを感じていました。また、フィット感はシューズの生産の分野でも改良できました。図面やパターン製作を担当する設計チーム、工場の生産チームとも話し合い、製作方法まで改良したことで、実際に足を入れた時の感覚についても高い評価を得ることが出来ました。

デザイン担当:
あと、実はメッシュ下にある補強パーツが、ランニング中のフィット感だけではなく安定性の向上にもつながっています。

商品開発担当:
これは前作から踏襲した機能ですが、S.Nさん(研究担当)が更に機能を向上させる具体的な形状を提案してくださり、H.Nさん(デザイン担当)がデザインに起こしてくださいました。

研究担当:
ある程度距離を走って疲労が溜まると、足の変形は通常より大きくなり、ネジレが出てしまいます。それをサポートするために、補強パーツの形状をひし形にしました。アッパーが引き延ばされる強さによって、補強部の硬さが変化するよう構造を工夫しています。つまり、走り始めの疲れていない状態、フレッシュで足の変形が小さい時は、補強部分は比較的柔らかいので足当たりは良いですが、疲れてきて足の変形が多くなり、アッパーが強く引き延ばされるようになると補強部が硬くなり、過度な足の変形を抑えてくれるようにしたのです。これは研究所の成果で、このプロジェクトがはじまる時から採用したいと考えていました。

商品開発担当:
確か、評価試験ではランナーにサンプルを履いて20kmほど走ってもらって計測しましたよね…。

研究担当:
リアルなデータが欲しかったんです。被験者はアシックスの社員でしたが、仕事とはいえ、20km走っている中計測し続けるのは、被験者はもちろん,計測担当の社員も大変だったと思います(笑)。おかげでいいデータが取れました。


お客さまの喜びの声と、飽くなきものづくりへの探究心

商品開発担当:
みなさんのおかげで、GEL-KAYANO24は無事発売されました。足かけ約1年半、前モデル発売前から動いていたプロジェクトを完遂できたわけですが、パッケージに入った商品を目にした時に「ついにできたんだ!」という達成感がありました。アシックス公式サイトの商品レビュー欄をいつもチェックしていますが、いろんな国のお客さまから「フィット感がよくなった」という意見がたくさんアップされていて、うれしかったです。やはり発売することがゴールではなくて、お客さまが手にして「いいね!」と言ってもらえることが私たちのゴールですね。

デザイン担当:
今回の市場調査やモニターの意見で、これまでのファンや新しいお客さまから「カッコいい」「履きやすい」といった意見が挙がっていたのはうれしかったです。デザインクオリティは機能性とイコールだと思っていて、機能性が優れたものは、やはりデザインも優れています。前作以上という目標は、十分クリアできたという自負があります。

研究担当:
公園などでGEL-KAYANO24を履いているランナーを見るとうれしいですね。自分の仕事がカタチになったんだと実感できる瞬間です。シューズの基礎研究などは大学などでも行われていますが、その成果が商品に結びつくことはなかなかありません。アシックスでは、自分たちの研究成果がどういうプロセスを経て商品になり、お客さまにどう喜んでいただけるのかを目にする機会があります。それが僕の研究のモチベーションにもなっています。

商品開発担当:
ただ、今改めてGEL-KAYANO24を見ると、「もっとこうしたい」という新しいアイデアや挑戦してみたいことが浮かんでくるんです。

デザイン担当:
そこは僕も同じですね。でも、それが次へのモチベーションになっています。S.Nさん(研究担当)はどうですか?

研究担当:
基礎研究の成果が高機能アイテムにつながると、今回のプロジェクトであらためて実感できました。目的を意識することで、新たな研究の着眼点に気づけたり、開発に活かしやすいよう数値のまとめ方を変更したりと、仕事へのスタンスもいい方向へ変わったように思います。


アシックスのものづくりへの熱意とこだわり

商品開発担当:
アシックスはモノづくりに対して熱い人が多いと思います。S.Nさん(研究担当)はデータへのこだわりがすごいです。少しでもよい数値が出せるよう、いろんなアイデアを提案してくださいます。H.Nさん(デザイン担当)も、一緒に仕事に取り組む中で、いろんな意見やアイデアを集約し、考え抜いてデザインされていると思います。僕自身、シューズづくりへのこだわりは人一倍あると思っていますが、みなさんと仕事ができて、本当に毎日が刺激的でした。

研究担当:
今回のプロジェクトを通じて、何事にも興味を持つことが大切だとあらためて感じました。僕も、T.Iくん(商品開発担当)やH.Nさん(デザイン担当)の意見を聞いて、自分自身の基礎研究に役立つヒントがたくさん得られました。

デザイン担当:
そう言ってもらえるとうれしいですね。やはりデザインにも新たな刺激が常に必要で、いろんな人との出会いや相手の視点で物事を考えることが大切だと思います。それがいいモノづくりにつながると思うので。アシックスは社内のあっちこっちで化学反応が起きていて、僕も日々いい刺激をもらっています。

商品開発担当:
本当にそうですよね。僕の部署の先輩たちは、まだシューズを手作りしていた時代を知っている方が多くて、モノづくりへのこだわり、シューズ一足への熱意がすごいんです。そのすべてに“お客さまのために”という視点があって、これがアシックスの原点だと感じています。「お客さまに愛されるシューズを作り続けたい」という思いをいつも肌で感じているからこそ、僕も開発者の一人として、モノづくりへの妥協はありません。

デザイン担当:
GEL-KAYANO24でも、妥協はなかったですね。

研究担当:
「絶対に、前作以上のアイテムにする」という思いを持っていました。

商品開発担当:
妥協せずに一つのモノを作り上げることは大変なことも多いですが、その分やりがいも大きいです。これからもそんな”モノづくり”を続けて、次のプロジェクトでも、良いシューズを作っていきたいと思います!!