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アシックスPROJECT

ウェアには陸上短距離のタイムを縮める力があるか?

リオデジャネイロ2016オリンピック・メダリストを支えた高機能ウェア開発ストーリー

アシックスの代名詞ともいうべき高機能スポーツシューズ。
その研究を通じて培った知見をもとに高い機能を持つウェアを作れないか?
そんな発想からスタートした、トップアスリート向けウェア開発。前例のない挑戦に立ち向かう若い開発チームが、いくつもの葛藤を経てたどり着いた、歓喜のメダル獲得への物語。


作り方はわからない。でも「速く走れるウェア」を作りたい

リオデジャネイロ2016オリンピックまでに選手用高機能ウェアを作る。
それ以外何も決まっていなかったプロジェクトは、全くの手探りで始まった。

石川 スタート地点は「リオデジャネイロ2016オリンピック向けに新しい機能を持ったウェアを作りたい」ということだったのですが、実は種目も決まっていませんでした。スポーツ工学研究所(以下、研究所)が長年の研究で培った多くの知見を活かし、「選手がまとうものすべてで役に立ちたい」「服もギアの一つとして扱ってほしい」という想いで始まったプロジェクトだったんです。その後、陸上・短距離用のウェアに絞って開発することになったのが2013年の春。しかし社内には疑問の声もありました。高機能なものを作るにはコストもかかりますし、そもそも研究とデザインがゼロから協働して機能性ウェアを作ること自体が初めてで、「服に何ができるの?」という意見もあったんですね。「選手のパフォーマンスを後押しするためにやり抜かないと!」という気持ちではいましたが、「お金をかけてやるからには結果を出さないといけない」「理由を説明できないといけない」と焦って、最初の頃はいろいろブレてしまったところもあったと思います。前の会議ではA案で行きますと言っていたのに、次の会議ではやっぱりB案でと言って「言っていることが違う」と突っ込まれたり……。

北爪 ブレるというより、自信がなくなってたんじゃないかな。僕自身はこういう新しいプロジェクトはトライアル&エラーこそが仕事で、いくつトライできたかが肝心だと思うんですけど、もっと最短距離で正解にたどり着くべきという考え方もありますから。本当は、前回の会議と言っていることが違うのも、進んでいる証拠なんですけどね。

石川 それでいいんだ、と気づかせてくれたのが、アメリカでの仕事経験豊富な北爪さんでした。

 新しいといえば、パタンナーと研究所で相談しながら機能を追及するということでした。それまでは、研究所が作り上げたものを形に落とし込み、指示されたポイントを守って型紙を起こす、という仕事の進め方でしたからね。

石川 そう。今回のように0から1を作る段階からデザイナー、パタンナーと一緒に進めたのは初めてでした。「速く走れるウェア」と言っても、どうすれば実現できるのか、答えが何も見えていない中、「迷ったときに立ち戻れるコンセプトを決めておこう」と当時のプロジェクトリーダーにアドバイスを受けたんです。それで北爪さんと2人で考えたのが、「速く走るためだけに生まれた生物がいるとすればどんな形をしているのだろう?」というコンセプト。デザインありき、形ありきではなく、あくまで「速く走れるデザインや形とは何か?」をしっかり考えたいという思いをお互いに確認し、2人で考えていきました。


刻々と期限が迫る中、理想の形を求めて繰り返した試行錯誤

それぞれが専門性をぶつけ合い、限られた時間の中で試作を繰り返す。
チーム内の衝突、厳しい意見。それでも手だけは動かしていた。

北爪 機能を追求するという意味で、今回の仕事はアパレルというより工業デザインに近いと思うんですね。すごくテクニカルで頭を使う仕事。そういう分野では、機能を極めることで自ずから美しいものができる。自分としてもそういう仕事をしてみたいと思っていました。

石川 同時に僕も、「君は研究者だけど『ファンクションデザイナー』でもある。機能をデザインするんだ」と言われました。合理的な形は美しい。その合理性を追求するのが自分の役目だと。合理的であるためには無駄があってはいけません。たとえば、ピタピタした服を着ると一般的に動きにくいと感じることが多いものですが、そういう動きにくさ=無駄な力を感じずに着られるものでなければならない。さらには、人が動く力をアシストするような機能を持たせたい。そのために、よく伸びよく戻る生地から開発し、それをどう使うかという理論を練り上げました。でも「よっしゃこれだ!」と思って勢い込んで話した理論が全然伝わらなくて……2人には何回も質問されましたね。

北爪 一生懸命説明してくれて、こっちも咀嚼できたつもりで「着心地を損なわずに機能を発揮できるのでは?」と案出しをすると、「そうじゃなくて」と言われて「オマエ昨日言ってたことと違うだろ!」なんて話になったこともありました(笑)。

石川 僕のいる研究所と、北爪さんや張さんのいる本社が離れているので、基本は電話でやり取りをするんですけど、そういうよくない雰囲気になって「このままじゃまずい!」と結局本社に行き、「さっきの話ですけど」なんて話しかけたり(笑)。

北爪 さっきまで電話で話してたのに「なんでここにいるんだよ!」って(笑)。でも、そういうことが起こるのもしょうがないんですよね。誰も目的の形が分からないでやっているんだから。

 そうやってせっかくデザインを上げてもらっても、縫製できないとダメなんですよ。たとえば、最初のデザインは確か足首まで覆われた形で、ぐるっとテープを巻くように生地が使われていたんですけど、「どうやって縫おう?」(しばし沈黙)「……とりあえず電話してみようか」みたいな感じでした。サンプルを何回も作る時間もなかったし、そもそも選手に着てもらうものだからそんなに試着の機会もなく、1回で試着できるところまで持っていくのにはどうしよう?ととても頭を使いました。フィットしないと機能を発揮できないデザインだけど、着られないものでは意味がないですし。

石川 選手のところに持っていって「着られなかった」ということのないように、選手の体形を3D化したデータを使ってPCの中で着せてみるんですが、そのためにいくつもパターンを作ってもらったり。

 パターンの工夫で選手の体に合わせてどこまでフィットさせるかを追求する。一般のアパレル製品でそこまでやることはないので、私にとっても貴重な経験でした。

石川 嬉しかったのは、張さんがパターンを考えるとき「機能的にはこういうことですよね」と、理解したうえで判断してくれたことでした。結局何パターンくらい作ったかな?

北爪 デザイン画は、手描きのものも入れたら50くらいかな。

 パターンも40とか50くらいですね。

石川 それでサンプルまで作ったのはサイズ展開も含めて120とかそれくらい。

北爪 120といっても大きく6段階くらいですかね。もっとできる部分はあったと思うけれど。

石川 とはいえ、「スポーツのために服にできることがある」と伝えるために、どうしてもリオデジャネイロ2016オリンピックで成果を見せたかった。その先の東京2020オリンピック・パラリンピックで花咲かせるためにも、今回何らかの成果を出しておく必要があったんです。最終期限は2015年の夏。それなのに、2014年の12月の大学生アスリートの試着で「体の動きが制限される感じがする。これを着て本気で走りたいと思えない」と言われてしまったときはショックでした。でも、北爪さんが「年末年始の間にもう一度デザイン画を描いてくる」と言ってくれて。本気になってくれているのが嬉しかった。

北爪 本気というかムキになってたのかも?(笑)お互いに刺激し合えていたのは間違いありませんね。それで、年明けの2月に「これで行こう」という形を作り、書類も全部整えて、マーケティング担当者や開発担当者も集まる会議に持ち込みました。そこでも「機能検証はまだなのに、本当にこれで大丈夫なのか」と厳しいチェックを受けたんですけど、そこで石川さんがタンカを切った。

石川 北爪さんと2人でじゃないですか!(笑)「検証でいいデータが出たらちゃんと進めてくださいね!」って。結果、4月の実験で学生アスリートに着用、試走してもらったら、9人中8人でタイムがよくなるのが示されたんです。そしてトップ選手であるフランスのルメートル選手の着用テスト。プロジェクトの進退が左右される重要なテストですから、内容を十分に理解している人間が出向く必要があり、我々3人を含むプロジェクトメンバーが揃って渡仏しました。吐きそうになるくらい緊張したけど!(笑)

 このときルメートル選手に「このウェアでリオデジャネイロ2016オリンピックに出たい」と言ってもらえたことは、プロジェクトを通じて一番嬉しかった瞬間の一つです。

石川 実は2月の会議のときに知ったんですが、僕たちのプロジェクトとは別に、保険として別のウェア案も用意されていたんです。もし4月の実験で結果が出なかったらそちらの案が採用されていた。契約チームはすでに決まっていて、メーカーとしては必ず何らかのウェアを提供しなければならないので、当然といえば当然なのですが、そうなれば僕らの3年間はなかったことになってしまう。本当に崖っぷちだったんです。

歓喜のメダル獲得!そのとき作り手として気づいたこと

リオデジャネイロ2016オリンピックでは、新開発のウェアを着用した選手が見事メダルを獲得。
喜びに沸く社内で、それぞれの胸に去来した思いとは。

石川 こうしてようやくウェアが完成して、僕たちの仕事は一段落。普通はそうなんですけど、今回は、全く新しい製品ということもあり、各国関係者へのプレゼンテーションも自分で行うことになりました。2015年8月の北京の世界陸上に集まっている各国の陸上連盟を訪ねて回るのですが、たとえて言うと、普段はウエイターが料理の説明をするところ、シェフが出ていってお勧めするようなもの。製品の背景やストーリーを伝えることも、大きなイベントでは必要だと実感しました。同時に、そのためのコミュニケーション力の必要性も痛感。英語もですが、それ以上に、想いや熱意の大切さを感じました。もしかしたらこれは、研究者である自分がやるべきことを超えているかもしれない。でも、ここまでやりきったことによって,「これ以上のウェアはない」と言い切れるものに仕上がりました。

北爪 リオデジャネイロ2016オリンピックのレース当日は、研究所の大きいスクリーンの前に20人くらい集まって中継を見ていたんですけど、結果を見て石川さんが泣いちゃって(笑)。

石川 北爪さんだってうるんでたじゃないですか!

北爪 それは石川さんが泣くからだよ!(笑)

 私は「そろそろだな」と思いながら忘れて普通に仕事をしちゃってて、社内で結果を聞いてしまってから慌てて「テレビつけていいですか!?」って(笑)。

北爪 ええ?ホントに!?(笑)

石川 でも、途中で厳しいことをたくさん言われて、何度も悔し泣きをして、それが最後は嬉し泣きに変わった。嬉し泣きなんて、なかなかできることじゃないと思うと、本当に素晴らしい経験だったなと思います。

北爪 放送が終わったあとは、他のデザイナーからも「感動したよ!」と声をかけられて。「スポーツカンパニーの醍醐味ですよね!」という熱いメールも来ました。

石川 「自分の会社を誇りに思ったよ」と言ってくれた人もいて、そういう機会になったのなら本当によかったと思います。

 振り返ってみると本当に長いプロジェクトでしたね。一般の商品なら、パターンを作って、サンプルを仕上げ、それが市場に出るというシンプルな流れで進むのですが、今回のは、何年もかけ、何回もサンプルを作り直し、選手の体に合わせていくという仕事。じっくり向き合えたのは素晴らしい経験でした。また、石川さんという研究者の知識を伝えてもらうことで、人間の体の動きを学ぶこともできましたが、これは、パターンを作るという仕事の上でとても大切なこと。今後に向けて、一般向けの商品であっても、パタンナーの視点からいろいろな提案をできるようになったと思います。

北爪 最新のテクノロジーに最先端で関われるのがスポーツウェア。機能を追求した服は、人間を進化させるギアなんです。今回のウェアは、いわば人間を「0.1秒早く走れるマン」にしてくれる。人間をネクストレベルに引き上げるという意味で、世界を変える力があるともいえます。そういう可能性を突き詰める仕事を自分はとてもやりたかった仕事だし、それを、研究者と、服づくりのプロであるパタンナーと密接に関わりながらできたのは、本当に面白かった。アシックスには、一緒に世界を変えていく仲間がいたんです。

石川 リオデジャネイロ2016オリンピックで身に着けるものが選手の人生を左右するということはもちろんありますが、プロジェクトに携わったことで僕自身の人生も変わりました。アシックスと自分が携わったウェアが世に出て、改めて世界に与えるインパクトの大きさを感じています。もう一つ大きく変わったのは仕事に対する考え方で、圧倒的にコンシューマ目線で考えるようになりました。途中、いろいろな問題に直面したけれど、とにかく、使う人のためになると信じて動いてきてよかった。作ったものは、使ってくださる人に喜んでもらうのが一番。そこを作り手が考えていないと成り立たないんですよね。

北爪 僕たちは選手にはなれないけど、選手になりきって考えないとね。

 研究所の知識や技術を活用していけば、もっといろんな新しいものが作れるんじゃないでしょうか。今回は陸上だったけど、研究所にはもっといろんな知識を持っている人がいて、パタンナーにも競技ごとに担当者がいる。きっとほかの分野でも同じようなことはできるはずです。

石川 今後もスポーツ用品の可能性を広げていきたいですね。そして世界の人にそれを認識してもらえるようにしたい。僕は神戸生まれの神戸育ち。その神戸を代表してアシックスが世界に出て、地元の企業として誇りに思ってもらえるような存在になれればと思っています。

注) アシックスは東京2020ゴールドパートナー(スポーツ用品)に決定しました。